インプロとワークショップについて考える

インプロ(即興演劇)とワークショップについて考えています。現在は「第三インプロ研究室」にてワークショップを行っています。

インプロワークショップのご案内

遊びと学びはひとつながりのものだと思います。遊びの無い学びはただの勉強で、それは知識や技能を身につけるためには有効なものですが、その人自身が変わるものにはならないと思います。反対に、学びのない遊びはただの娯楽で、それは楽しいと言えば楽しいものですが、真剣に取り組めるものにはならないと思います。

劇(Play)は根本的には遊び(Play)です。しかし、それは深く学びへとつながっている遊びだと思います。第三インプロ研究室のワークショップではインプロを遊びながらさまざまなことを学んでいきます。ご興味のある方はどうぞワークショップへお越しください。

インプロワークショップ - 第三インプロ研究室

実際にはどのようなことを目指しているのか

以下は毎回テーマを設けてワークショップを行っていたときの告知一覧です。どのようなことを目指してこのワークショップを行っているのかの参考になると思います。なお、当時はインプロ経験者に限定してワークショップを行っていたため全体的に高度な内容になっていますが、今はもっと基本的なことから扱いますのでご安心下さい。(というよりも、回を重ねるにしたがって基本的なことが大事なのだと思うようになりました。)

インプロワークショップ vol.7 「貢献する」

僕はいいインプロバイザーとは「相手が自分に何をしてくれるか」を考える人ではなくて、「自分が相手に何をできるか」を考える人だと思っています。

相手が自分に何をしてくれるかを考えていると、本当に自分のために行動してくれるか不安を感じ、行動してくれないと怒りを感じます。自分が相手に何をできるかを考えていればもっと夢中でインプロをすることができます。

しかし、これは自分を犠牲にして相手を立てることではありません。自分を犠牲にして苦しんでいる人とインプロをすることは難しく、結局は相手のためになりません。

インプロにおける「相手のために」は、自分と相手を分けるのではなく繋がるところに特徴があると思います。自分自身をオープンにすることが自分のためにも相手のためにもなる、というコンセプトを理解していくことがインプロでは非常に重要だと思っています。

今回のワークショップのテーマは「貢献する」です。自分勝手になるのではなく、自己犠牲をするのでもない、本当に貢献できるインプロバイザーになることを探究していきたいと思っています。ご興味のある方はお気軽にご参加下さいませ。

インプロワークショップ vol.6 「失敗をオープンにする」

即興するということは失敗するということだと思います。好むと好まざるとに関わらず、即興していればどこかに失敗はあります。

インプロでは失敗することが大事なのではなく、失敗を「オープンにすること」が大事なのだと思います。失敗を隠すとその場所は変な空気になり、さらに失敗をオープンにできない場所になっていきます。失敗をオープンにすればその場所は楽しくなり、安全な場所になっていきます。

失敗をオープンにすることは、学びにとっても重要なことだと考えています。失敗を認めないと、同じことを繰り返すことになってしまいます。それは一度ついた嘘がバレないように嘘をつき続けるようなものです。しかし、失敗を認めればそこから新たな一歩を踏み出すことができます。

失敗をオープンにすることは、その時間を楽しく過ごすことと、それを未来へとつなげていくことを両立する鍵だと思います。

今回のワークショップのテーマは「失敗をオープンにする」です。これはインプロワークショップでは基礎中の基礎として扱われることですが、実際にそれができるかというとまた別問題だと思います。

ウォーミングアップゲームでは失敗をオープンにできるけれど、インプロゲームになると失敗を隠し始め、フリーシーンになると一生懸命失敗を隠しているというのがよくあるケースではないかと思っています。

今回のワークショップは「失敗をオープンにする」という基礎を扱いながら、それをゲームで理解するだけではなく、フリーシーンやディレクションといった進んだところまでつなげていきます。ご興味のある方はお気軽にご参加下さいませ。

インプロワークショップ vol.5 「ふりかえり」

率直に言って、インプロのふりかえりは難しいものだと思います。なんとなく「タノシカッタネー」と言いあうだけの時間になったり、はたまた「ゴメンネー」と言いあう反省会のようになったり、場合によっては「デモー」と批判的になったりと、なかなか建設的にインプロに向き合う時間にはならないように思います。また、建設的な時間にならないということで、そもそもふりかえりをしないという選択をしていることもあると思います。

しかし他の創造と同じように、インプロも協働してより良いものを作っていくのであれば、やはり建設的なふりかえりは必要なものだと思います。そこで今回のインプロ研究室は「ふりかえり」をテーマにしようと思います。

僕はふりかえりが建設的なものであれば、ふりかえり自体も創造的で楽しいものだと思っています。同時に、インプロのふりかえりの態度は、インプロに対する態度も表していると思っています。ふりかえりで気をつかう人はインプロをするときも正直になれていないし、ふりかえりで謝っている人はインプロをしている時も自信を持てないでいるし、ふりかえりで批判的になる人はインプロをしている時もコントロールしようとしている、と考えています。

これは逆に言えば、ふりかえりの質に気づいたりそれを変えていくことで、インプロの質も変えていくことができるということです。ふりかえりをしている時の自分はインプロをしている時の自分よりも普通の状態に近いので、より自分の状態に気づける可能性もあると考えています。

当日はいつものワークショップどおりたくさんのシーンをやりながら、それでいてひとつひとつのシーンを流さずにふりかえっていきたいと思っています。「ふりかえり」をテーマにするというとなんだか重い感じがしますが、「自分のやっていたことには意味があったんだ」と気づいたり「さらにそんな可能性もあったんだ」と気づくことによって、「もっとインプロがやりたくなる」ふりかえりを目指していきます。ご興味のある方はどうぞご参加下さいませ。

インプロワークショップ vol.4 「ディレクション

キース・ジョンストンのインプロでは、そのショーに「ディレクター」という存在がいることが多くあります。ディレクターとはシーンの演出家のことです。ディレクターはプレイヤーの状態を見て手助けをしたり、ストーリーの流れを見てシーンを良くしていきます(=ディレクション)。

キースが作ったショーのフォーマットでよく知られたものには「シアタースポーツ」「マエストロ」「ゴリラシアター」がありますが、このうちマエストロ・ゴリラシアターにはディレクターが存在します。また、シアタースポーツでも審査員にはディレクターとしての視点が必要になります。

このように、キースのインプロではディレクションは非常に重要なものですが、実際にディレクションについて学ぶ機会はほとんどなく、そもそも試す機会すらあまりないように思います。

そこで、今回のインプロ研究室は「ディレクション」をテーマにしようと思います。

僕はワークショップをする中でディレクションをしたり、ショーのディレクターになったことも何度かありますが、いまだにディレクションについては未知だらけです。インプロ研究室をはじめたのは自分がディレクションを学ぶため、という理由もあります。

したがって、当日は僕がディレクションについて何かを教えるというよりも、参加者それぞれがディレクターの立場を経験しながら、ディレクションとは何なのか・どうやるのか・どう学んでいくのかを少しずつ探究していきたいと思っています。

ディレクションはインプロを教える人にとっては非常に重要になりますし、プレイヤーにとっても客観的な視点を持つための手掛かりとして有効だと思います。「ディレクションをする」と聞くと何かすごく難しいことをする感じがしますが、簡単なところからスタートしようと思っていますので、ご興味のある方はお気軽にご参加下さいませ。

インプロワークショップ vol.3 「味わう」

インプロではシーンの中で何かを食べていることはよくあります。しかし、それを本当に味わっているかというと、食べている「ふり」をしているだけで、頭の中では「どうしよう?」と考えていることが多いように思います。

そしてこれはパートナーとのやりとりに対しても同じなのではないかと思います。相手の言葉を言語としては聞いているけれど、そこにある質感や、さらに言えば相手の存在自体を味わうことはほとんどしていないように思います。ここでもやはり聞いている「ふり」をしているだけで、頭の中では「なんて返そう?」と考えている状態があります。

「味わう」ということから考えると、インプロは食レポと似ているところがあると思います。演じることも食べることも本来は喜びであるはずなのに、それを人前に持っていった途端に味わうことをやめてしまい、「どううまく返そうか?」と焦ってしまいます。

今回のワークショップでは、ひとつひとつを味わってみたらシーンはどんな風に変わるだろう?ということを試してみたいと思います。当日は特別なワークをやるというよりも、たくさんのシーンをやったり見たりしながら、少しずつ探究していきたいと思っています。ご興味のある方はどうぞご参加下さいませ。

インプロワークショップ vol.2 「即興する身体」

インプロをやっているとよくある質問に「なんで即興でやっているんですか?」というものがあります。昔の僕はいろいろな理論を使って答えていましたが、今はシンプルに「即興でやった方が面白いから」と言えるようになりました。

なぜシンプルに答えられるようになったかというと、その理由のひとつには身体系ワークショップでの経験があります。先日は「気で投げる」ということをするワークショップに行ってきましたが、そこで起きている現象はインプロと同じだという実感がありました。

合気道では信じられないような力が発揮される瞬間がありますが、僕は即興にもそのような力があると感じています。このワークショップでは、まずはこの体験をシェアしたいと思っています。

また、インプロでは一瞬一瞬に反応していることが大事と言われますが、身体をその手掛かりにすることはとても有効なのではないかと思っています。なぜなら、感覚や思考を認識するよりも先に身体は動いていると思うからです。

例えば、人は熱湯に触るとすぐに手を引っ込めますが、その動作は感覚(熱い!)や思考(手を引っ込めよう!)を認識するよりも先だと思います。以前ドッキリ番組で水を熱湯だと思って触らせる場面を見ましたが、水を触っても同じ動作が起きていました。もし感覚の認識が動作よりも先にあればこのようなことは起きないはずです(熱くないのだから手を引っ込める必要がない)。

「熱いと感じる」→「手を引っ込めようと思う」→「引っ込める動作」では実際ではやけどをしてしまうし、演技の場合はリアリティーがないものになると思います。逆にドッキリのリアクション並の演技ができたらそれはものすごくリアルだと思います。インプロは台本が決まっていないため本当の反応が出やすいものではありますが(その瞬間は即興の力が発揮される)、そうでないことも多くあるというのが僕の実感です(即興しているフリをしているだけ)。

このワークショップでは感覚や思考を認識するよりも先に反応している身体に注目してインプロをしてみたらどうなるか、ということを実験してみたいと思っています。

当日は身体に関するワークとインプロの両方を行います。身体に関するワークは激しいものではないので、運動に自信のない方でも大丈夫です。体も心も健康になるような時間を目指しています。

ご興味のある方はどうぞご参加下さい。ともにインプロを探究していきましょう。

インプロワークショップ vol.1 「誰しもが持っている想像力を使ってストーリーを語る」

【インプロを探究していく場所としてのワークショップを始めます】

僕は大学3年生の時に大学付属の小学校に教育実習に行っていて、その時の指導教諭(とってもいい先生だった)に聞いた話で印象に残っているものに、「最初の数年間に担任した子どもたちにはごめんなさいだよね」というものがある。

その先生曰く、今となって振り返ると当時の授業は下手で当時の子どもたちには申し訳ないと思うけど、それでも授業はやらなければ上手くならないからやっていくしかないということだった。(それから授業の上手さとは別に新任だからこそ伝えられるものもあるという話もあって、それは実習生達への励ましになっていた。)

僕も不定期とはいえインプロを教え始めてから5年くらい経つけれど、今になって最初の頃を振り返るとインプロを教えるのが下手だったなぁと思う。当時の僕は即興をする上で必要の無いことを教えていて、必要なことを教えていなかった。

けれどその過程で「自分はインプロのことを全然分かっていなかった!」という発見を繰り返して、今はようやくシンプルに「即興する」ということを教えられるように(少なくともそれに向き合うことができるように)なってきたように思う。

そしてそれはシンプルでありながらも奥深く、いつまでも探究できるものなのだなぁと感じている。(これはどんな分野でもそうかもしれないけれど、昔の方がもっとずっと「すぐにできる」ものだと思っていた。)

というわけで、シンプルにインプロを探究していく場所としてのワークショップを始めたいと思っています。1回目のワークショップはさっそく3月18日(金)に行います。参加したいという方は僕に直接教えてください。

この日のテーマは「誰しもが持っている想像力を使ってストーリーを語る」です。先日静岡の中学校でインプロショーをした時に、「お話しが始まったら続きが気になる」という当たり前のことを再発見しました。

ストーリーテリングのインプロでは「次はどうしよう……」と考えがちですが、「次はどうなるんだろう?」という誰もが持つ興味を具体的にすることによってストーリーを語るということにチャレンジしたいと思っています。

このワークショップもまた数年後に振り返ったら「ごめんなさいだよね」となるかもしれないけれど、それでも進んでいくしかないと信じて。

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