演劇ワークショップを探している人(特に初心者)へのインプロのすすめ
この記事は演劇ワークショップを探している人(つまり検索で来たあなた!)に向けてインプロをおすすめるというものです。
インプロとは即興演劇のことです。台本も設定も役も決まっていないところから、プレイヤーたちはお互いを受け入れあいインスパイアしあいながらシーンを生み出していきます。
なぜインプロをおすすめするのか?
一般的な演劇ワークショップでは、だいたい次のような流れでプログラムが組まれています。
- アイスブレイクゲーム(簡単なゲーム)
- からだをほぐす・声を出す
- 短い台本を読んでみる
このようなプログラムは初心者向けとされており、たしかに初心者でもやりやすいプログラムではありますが、実際にはすでにだいぶ専門化されている演劇だと思います。
Play is play. 劇は遊び。
演劇は根本的には遊びだと思います。それは子どもが「ごっこ遊び」をするようなものです。そして子どもはごっこ遊びをするのにウォーミングアップはしませんし、自主的にお話を作っていくことはあっても、台本を読んでみようということはほとんどありません。
その点、インプロは非常に原始的な演劇だと思います。自分で役や設定を決めて、そしてお話を作っていくという遊びです。
しかし、それは子どもにとっては簡単でも大人にとっては簡単ではなく、むしろ初心者向けプログラムよりもずっとむしろ難しいことかもしれません。
子どもは誰に教えられるでもなくごっこ遊びをすることができます。そこには恐れはなく、純粋な遊び心があります。しかし、大人になると簡単な劇であっても純粋に行うことができなくなります。そこには「こんなアイデアでいいんだろうか……」といった評価への恐れや、「これをやったらどうなるんだろう……」といった未来や変化への恐れがあります。
インプロはそのような自分に気づかせてくれるものであり、そして純粋な遊び心を取り戻す手助けをしてくれるものです。それは何か新しいテクニックを身につけるというよりも、自分が本来持っている力を取り戻すものだと思います。
より高度な演劇を目指すのであればテクニックを身につけることも必要です。しかし、その根本としては演劇を楽しむという遊び心が必要だと思います。「うまくいかなかったらどうしよう」という恐怖を抱えたままでは、どんなテクニックを身につけてもその人が持っている魅力や存在感は表れてこないと私は考えています。
このように、インプロは演劇の根本に触れるという深さを持っているものですが、同時に演劇の全体に触れるという広さを持っているものだとも思います。
インプロをするということは、演技し、演出し、脚本を作るということです。こう書くと難しく思うかもしれませんが、実際にはごっこ遊びでも演技・演出・脚本作りは自然と行われています。「ママの役をやる」ということは演技をするということですし、「ここにはテーブルがある」と決めるのは演出をするということですし、「最近うちの子どもがね……」と話し始めるのは脚本を作るということです。
多くの演劇ワークショップでは演技・演出・脚本のうち、実際には演技の部分しかやりません。もちろん「自分は演技をやりたい」という人であれば演技だけでもいいとは思いますが、「演劇に触れてみたい」というのであれば演劇全体に触れられるインプロはおすすめできるものだと思います。
インプロは難しい?
「即興」と聞くと、演劇部だった人の中にはエチュードの苦い思い出が蘇ってくる人もいるかもしれません。また、全く演劇を体験したことがない人でも「即興は苦手……」と思う人が多いと思います。
しかし、即興が苦手だからといってインプロを避けてしまうのはもったいないことだと思います。私はこれまで数百人にインプロを教えてきましたが、「即興が得意です」と言った人は今のところ一人だけで(お笑い好きの高校生で、本当に上手でした)、多くの人は「即興は苦手」と言います。だからそれが普通なのだと思います。
インプロでは「うまくやる」ことよりも「うまくいかない」ことを受け入れることを大事にしています。「うまくやれなければいけない」という中では遊び心も何もありません。「うまくいくかどうかは分からないけど、面白そうだからやってみよう」というのが遊び心だと思います。
そしてそういった遊び心(余裕)は台本演劇にも活かされてきます。「台本を忘れたらどうしよう……」「うまくできなかったらどうしよう……」という考えに囚われていては、魅力的な演技をすることはできません。それよりも「次はこうしてみよう!」という遊び心にあふれているときのほうがずっといい演技をすることができます。
インプロは万能か?
もちろん「インプロをすれば全てが解決!」ということはありません。インプロは演劇の根本的なものなので、全ての問題と関係させることはできると思いますが、だからといって効率的に解決できるわけではありません。
問題を解決するために専門的なテクニックが必要だと思うのであれば、そちらを学んだ方がいいと思います。例えば「映像演技のためにアクターズ・スタジオのメソッド演技を学びたい」という人はメソッド演技のワークショップに行ったほうがいいでしょう。
しかし、先にも書いたように「演劇」というもの全般に興味があるのであれば、インプロはその入口として最適なものだと思います。
そしてインプロをやってみて、やっぱり演技をやりたいと思うのであれば演技のワークショップに行けばよいですし、演出することをやってみたいのであれば演出のワークショップに行けばよいと思いますし、ストーリーを作ることに興味があるのであれば脚本のワークショップに行けばよいと思います。もちろん、インプロを深めたいと思えばそのままインプロのワークショップに通うのがよいでしょう。
自分が演劇の中で何をしたいのかを発見するという意味でも、インプロは懐が広いものだと思います。
以上、最後までお読み下さりありがとうございました。インプロへの興味は少しは出てきましたでしょうか?第三インプロ研究室ではインプロのワークショップを行っていますので、ご興味のある方はどうぞワークショップへとお越しください。